やる気がでない…そんな時は?
「すぐやる脳」を育てる新習慣

「やらなきゃ」と思っているのに、なぜか手をつけられない――。そんな経験、ありませんか?じつは、その原因は意志の弱さや性格の問題ではなく、“脳の仕組み” にあります。私たちの脳には、変化や負荷を避けようとする性質があり、その結果、行動を先延ばししやすくなるのです。この記事では、そんな脳の特性をうまく利用しながら、やるべきことを無理なく前に進めるための習慣づくりのヒントをご紹介します。
「やる気」が出るまでに時間がかかる
その理由は脳がブレーキをかけるため
やる気が起きないと、「自分は怠けているのかな…」と落ち込んでしまいがち。これは脳の自然な反応です。脳はエネルギーをとてもよく使う臓器であるため、新しい行動や負荷がかかることを前にすると、“やめておこう”というブレーキをかけやすくなるのです。

■脳は現状維持を好み
エネルギーを節約しようとする本能がある
脳は一日の中で多くのエネルギーを使います。そのため、なるべく現状を変えないほうが安全で、省エネだと判断します。新しい作業や面倒に感じる作業は、脳にとって「余計なエネルギーを使う行動」。そのため、動き出す前にブレーキがかかり、「やる気が出ない…」という状態が生まれるのです。これは怠けではなく、誰にでも起こる脳の仕組みです。
■前頭前野の“報酬vsコスト”が
「面倒くさい」を生む
新しい行動を始めるとき、脳の各部で「やるべきか・やめておくか」の判断を巡って、綱引きが起きています。
・線条体…「これをやれば得があるか?」と、メリット(報酬)を計算する
・島皮質・扁桃体…「不快になるのでは? 面倒じゃない?」と、デメリット(コスト)を評価する
・前頭前野…それらを踏まえ、最終的な判断を下す
このせめぎあいの結果、「面倒くさい」という気持ちが生まれ、行動が止まってしまうのです。
■やる気を“待つ”とうまくいかない理由
実は、やる気は「行動したあと」に出てくるものです。つまり、“やる気が出たら動こう”と思っている限り、いつまでも動けないループにはまりやすくなります。
【動かない → やる気が出ない → さらに動けない】この悪循環を断ち切るには、「少しでも動き始める」ことが重要なのです。
すぐ動ける人は何が違う?
「すぐ動ける人=意志が強い人」と思われがちですが、実際は「脳の使い方が上手い人」です。やる気任せではなく、行動することでやる気を引き出しているのです。

■やる気は後からついてくる
小さく動くと線条体が活性化
行動を少しでも始めると、脳のやる気や行動のスイッチを押す役割を担う線条体が、「次もできるかも」と予測し、動きやすい状態になります。たとえば「机に向かう」「資料を1枚開く」など、それだけで十分。小さな成功体験を積み重ねるほど、【やる → やる気が出る → またやる】という好循環が生まれていきます。
■行動できたら“小さな報酬”を与える
行動することができたら、ささやかでいいので自分に“報酬”をあげると、脳が「行動=良いことがある」と学習します。「ここまで終わったらコーヒーを飲む」「好きな音楽をかける」など、小さなものでOK。繰り返すほどに線条体の活性化が起こり、やる気が湧きやすくなります。
■具体的に動くイメージを作ると脳が動き出す
脳は、曖昧な指示よりも「具体的な行動」をイメージすることを好みます。【まずパソコンを開く → 資料を読む】と、順番を軽く思い浮かべるだけで、行動が始めやすくなります。また、「サッとやろう」「グッと立ち上がる」など、オノマトペを使って自分に声をかけると、より脳が反応しやすくなります。
脳を“行動モード”に切り替える
カンタン習慣
行動のスイッチは、ちょっとした環境づくりやルーティンでも大きく変わります。日常に取り入れやすい習慣をご紹介します。

■1分でOK
とにかく「まず始める」
やる気を待たず、「1分だけやる」と決めて始めてみましょう。
1分の行動でも線条体が働き始め、自然と集中に入れます。小さく始めるほど成功しやすく、続けやすい方法です。
■ToDoリストは小さく
何度作ってもOK
人間が同時に処理できる情報は3〜4個とされます。細かく区切ったToDoリストを、その都度作り直すだけで「今やるべきこと」が整理され、脳の負担が軽くなります。たとえば「会議の準備」と一括りにせず、「①必要な資料を集める ②アジェンダを作る ③メールで資料を送る」など、行動を細かく分解することにより、脳の理解が早まり、行動がスムーズになります。
■行動前の“儀式”を作ると
脳が切り替わる
作業の前に「深呼吸する」「机をさっと拭く」「ペンを机に置く」など、ちょっとした儀式を作ると、脳が「これをしたら始める」と学習します。行動のハードルが下がり、習慣化にもつながります。
■「ミラーニューロン※」を活用
仕事が早い人の近くに行く
誰かが集中して作業している姿を見ると、自分も“マネしたくなる”脳の仕組みがあります。尊敬できる人や効率の良い人を観察するだけで、自分の行動が引き上げられます。職場や学校で「この人みたいに動きたい」という人を見つけると効果的です。
※自分が行動するときと他人が同じ行動をするときの両方で反応する特別な神経細胞(「ものまね細胞」とも呼ばれる)
■行き詰まったら、休む前に「次にやること」をイメージする
作業に行き詰まってしまうこともあるでしょう。そんな時には休憩することも必要ですが、休憩の前に、「次はこれをやる」と軽く思い浮かべておくと、休んだあとに再スタートしやすくなります。たとえば「休憩後はこの人にメールを送ろう」といった、“小さな一歩”を決めておくと、脳が次の行動を予測しやすくなるため、戻った瞬間にスッと動き出せます。脳のリセットと行動の準備を同時にできるテクニックです。
■行動後の“ご褒美”で習慣化が加速する
作業の途中途中で小さな報酬を挟むのも有効ですが、ひとまとまりの作業をしっかり終えたあとにも、大きめの“ご褒美”を用意しておくのも、さらに効果が出やすくなります。たとえば「この章を書き終えたらランチに出かけよう」「週のタスクをやり切れたら、映画を観にいこう」など、少し特別感のあるご褒美を設定するイメージです。自分にとっての楽しみが控えていることで、集中が持続し、習慣化が加速します。
■集中できる場所を複数持つ
いつも同じ場所だと飽きがきてしまいます。図書館、カフェ、自宅の別室など、集中できる場所を複数用意しておくと、環境の変化が刺激となって脳が動きやすくなります。

まとめ
「やる気が出ない」のは、意志の弱さや性格ではなく、脳の仕組みによるものです。やる気を待つのではなく、脳が動きやすい環境を作ったり、行動の流れを整えることが大切。「小さく始める」「行動にご褒美をつける」「始める前の儀式を作る」「環境を変えてみる」――こうした小さな工夫を積み重ねることで、誰でも“すぐやる脳”を育てることができます。今日から一つずつでも試しながら、すぐに行動する習慣をつくっていきましょう。
※この記事内容は、執筆時点2026年1月7日のものです。
篠原 菊紀(しのはら きくのり)
公立諏訪東京理科大学特任教授。脳科学者。東京大学教育学部卒業、東京大学大学院教育学研究科修了。専門は応用健康科学、脳科学。脳波や近赤外線を用いた脳活動の研究を通して、学習・運動・コミュニケーションなど、日常生活における行動と脳の働きの関係を明らかにしている。特に子どもの学習支援や高齢者の認知機能維持、依存症予防などに関する研究・啓発活動に力を入れており、自治体や教育現場と連携した地域実践も多数。テレビや新聞、書籍などでの解説もわかりやすく、子どもから大人まで幅広い世代に親しまれている。著書に『何歳からでも間に合う 脳を鍛える方法』(徳間書店)2024、『脳の鍛え方見るだけノート』(宝島社)2024、など。
