子どもからシニアまで!
「音読」「朗読」習慣で脳を活性化

声に出して読む「音読」や「朗読」は、昔から親しまれてきた身近な習慣ですが、脳を幅広く使うことで認知機能の維持や集中力向上に役立つ、“優秀な脳の体操”でもあります。文字を追い、意味を理解し、声に出す。この一連の動きは、脳のさまざまな領域を同時に使うため、年齢を問わず脳の活性化に役立ちます。本記事では、音読・朗読が脳に与える影響を紐解きながら、年代別のメリットや無理なく続けるコツ、家族で楽しむ方法までを分かりやすく紹介します。
音読・朗読はなぜ“脳の体操”になる?
音読や朗読は、ただ文字を声に出しているだけのように見えますが、脳の中では、読む・理解する・話すという処理が同時に行われています。視覚・聴覚・言語・思考といった複数の脳機能が連動することで、脳全体がバランス良く働く状態が生まれるため、脳の体操といわれるのです。
■音読が刺激する脳の領域
音読や朗読は複数の作業を同時に行い、脳の「言葉を理解」する領域や、「音声処理」の領域、感情や情動に関わる「大脳辺縁系」が盛んに動いています。
さらには、情報を一時的に記憶する「ワーキングメモリ」や、思考や判断を担う「前頭前野」など、さまざまな脳の働きが連動します。
例えば、人が心地良く音読しているとき、前頭前野の活動は一時的に落ち着くことが分かっています。代わりに活性化するのが、大脳辺縁系です。この結果として前頭前野を含む大脳新皮質を働きやすい状態に整えてくれます。懐かしい物語を読んで気持ちが落ち着く感覚は、回想療法に近い効果と考えられています。
一方で、「登場人物の気持ちになって読もう」「もっと上手に表現しよう」「少し速く読んでみよう」など、読み方に工夫を加えると、前頭前野は再び活発に働き始めます。リラックスと活性化を行き来しながら脳を使える点が、音読・朗読の大きな特徴です。
このように音読・朗読は、楽しみながら自然に脳を使う質の高い余暇活動となり、継続することで、認知症の発症リスクが低い傾向と関連するともいわれています。
■“読み方”しだいで脳の刺激が変わる
同じ文章でも、読み方を少し工夫するだけで、脳への刺激の入り方は大きく変わります。ただ文字を追うだけでなく、「どう読もうか」と考えること自体が、脳を積極的に使うきっかけになります。
登場人物の気持ちを想像したり、感情を込めて表現しようとしたり、あえてスピードやテンポを変えて読む。こうした工夫は、前頭前野をより積極的に使うことにつながります。
・感情移入
登場人物の立場や気持ちを想像しながら読むことで、物語への理解が深まり、感情を感じ取る力も養われます。
・表現の工夫
「上手に読もう」「伝わるように読もう」と意識することで、声の使い方や間の取り方に注意が向き、脳の働きが一段と高まります。
・スピードを変える、抑揚をつける
ゆっくり読んだりテンポを変えたりすると、脳にかかる負荷が変化し、集中力や柔軟な思考を引き出します。
楽しみながら続けることで、気分の安定や集中力の向上が期待でき、長い目で見ると認知機能の低下予防にもつながると考えられています。

音読と朗読、何が違う?
音読と朗読はどちらも「声に出して読む」行為ですが、音読は主に理解力・記憶力を高める読み方、朗読は表現力や感情理解を深める読み方という違いがあります。そのため、脳の使い方や得られる効果にも違いが生まれます。
■文字を声に出す「音読」
理解力・記憶力を底上げ
音読は、文字を正確に音に変えながら読み進めるシンプルな方法です。
内容を追いながら声に出すことで、目・耳・口を同時に使い、理解が深まりやすくなります。記憶に残りやすく、語彙力や読解力の土台づくりにも効果的です。特に、学習習慣を身に付けたい子どもにとっては、無理なく続けられる有効なトレーニングになります。

■内容を表現する「朗読」
表現力・感情理解・コミュニケーション力アップ
朗読は、背景や登場人物の気持ちを考え「伝える」ことを意識して読む方法です。
文脈を理解し、情景を思い浮かべながら声の強弱や間を工夫する必要があるため、音読よりも多くの思考を伴います。その分、前頭前野が刺激され、表現力や感情理解が深まります。
また、声で伝える経験を重ねることで、会話やプレゼンなど日常のコミュニケーション力向上にもつながります。

どちらも続けるための小さなコツ
長く続けるために大切なのは、頑張りすぎないこと。
1〜2分の短時間でもOKですし、読むスピードや声の大きさを変えるだけでも刺激は十分。好きな作品を選ぶと、やる気に関わる線条体が活性化し、「またやりたい」という気持ちが自然に生まれます。
年代別・音読&朗読のメリット
音読・朗読は、年齢に応じて異なる効果を発揮します。それぞれの世代に合った取り入れ方を見ていきましょう。
■【子ども】
語彙力・読解力・学習の土台づくりに最適
声に出して読みながら理解する経験は、学力の基礎を支えます。繰り返し読むことで語彙が増え、文章の構造をつかむ力も育ちます。学習への苦手意識を減らす入り口としても有効です。
■【働く世代】
ストレスケア・表現力アップに
心地良く読むことで大脳辺縁系が刺激され、気分が整いやすくなります。朗読による発声や滑舌のトレーニングは、プレゼンや会話など、仕事での表現力向上にも役立ちます。
■【シニア世代】
認知機能維持・舌のトレーニングにも効果
認知症予防の観点からも注目されています。声を出すことで舌や口まわりが動き、発声機能の維持にもつながります。昔話や懐かしい歌詞を読むことで、気分が安定し、脳も活性化します。
おうちでできる!
家族で広がる「音読・朗読」習慣
特別な道具や準備がいらないのも、音読・朗読の魅力です。一人でも家族でも、気軽に取り入れられます。
■一人でできる“ながら音読”
今日から始める簡単習慣
・朝の身支度中に1分
・通勤前に新聞の1段落
・夜寝る前に詩を1本読む
いずれも、生活の中にそっと組み込むだけでOKです。
■家族で楽しむ“コミュニケーション朗読”
・子どもと交代で読む
・家族劇場のように登場人物を読み分け
・おじいちゃん、おばあちゃんが孫に昔話を読みきかせ
交代で読む、登場人物を読み分ける、読み聞かせなど、家族で楽しむことで会話が自然に生まれ、世代を超えた交流につながります。
■何を読めばいい?おすすめテキスト例
・短い詩・俳句・童話
・新聞記事(短いコラムは最適)
・小説の好きなシーン
・子ども向けの読み物
詩や俳句、童話、新聞の短いコラム、小説の好きな場面など、「好き」「短い」「気軽」がポイント。
好きなものを読むことで線条体が活性化し、記憶に関わる海馬や運動に関わる脳領域も刺激され、学びやスキルの定着が早まります。
まとめ
音読・朗読は、特別な道具や準備がいらず、思い立ったその日から始められる身近な脳のトレーニングで、脳の活性や認知機能の維持にも役立つ習慣です。声に出して読むというシンプルな行為の中に、「読む・理解する・話す」という複数の働きが重なり合い、脳全体がバランス良く刺激されます。子どもにとっては、語彙力や読解力を育てる学びの土台に。働く世代にとっては、気分を整え、表現力やコミュニケーション力を高めるセルフケアに。そしてシニア世代にとっては、認知機能の維持や、声・口まわりの若々しさを保つ習慣としても役立ちます。
まずはお気に入りの詩や物語、新聞の一段落など、好きな文章を声に出して読んでみてはいかがでしょうか。小さな習慣の積み重ねが、脳と心に心地良い変化をもたらしてくれるはずです。
※この記事内容は、執筆時点2026年1月21日のものです。
篠原 菊紀(しのはら きくのり)
公立諏訪東京理科大学特任教授。脳科学者。東京大学教育学部卒業、東京大学大学院教育学研究科修了。専門は応用健康科学、脳科学。脳波や近赤外線を用いた脳活動の研究を通して、学習・運動・コミュニケーションなど、日常生活における行動と脳の働きの関係を明らかにしている。特に子どもの学習支援や高齢者の認知機能維持、依存症予防などに関する研究・啓発活動に力を入れており、自治体や教育現場と連携した地域実践も多数。テレビや新聞、書籍などでの解説もわかりやすく、子どもから大人まで幅広い世代に親しまれている。著書に『何歳からでも間に合う 脳を鍛える方法』(徳間書店)2024、『脳の鍛え方見るだけノート』(宝島社)2024、など。
