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~介護の現場から~
情報が届けば介護は変わる

多くの人に介護サービスを賢く利用してもらうために、介護を受けている人の生活を知ってもらうことの重要性を永島氏にお話しいただきました。 ◇インタビュー◇ NPO法人「 風の詩」理事長 社会福祉士、ケアマネジャー 永島 徹 氏

家族は安心したいから「まだ大丈夫」と思いがち

 今、65歳以上の全体人数に対し、65歳以上の要介護(要支援)認定者数割合は19.6%(※1)となっています。つまり、65歳以上の約5人に1人は、要介護(要支援)認定を受けているということになります。
 ところが、認定を受けた人たちすべてが、快く介護サービスを利用しているとは限りません。それは人それぞれ介護に対する思いがあるからです。
 当事者の方々からすれば、「家族に迷惑をかけたくない」とか、「バカにされたくない」といった気持ちがあって、介護が必要なことを認めたくないのだと思います。一方、家族は、「うちの父さん・母さん、じいさん・ばあさんは、まだまだ大丈夫」だと思いたい。そうした心理が働いて、「今のままでいいじゃないか」となっているのでしょう。
 ——なぜ、このように思ってしまうのか。それは、状況に即した生きた情報が入っていないことに原因があると、私は考えています。
 例えば、認知症について私たちの社会が抱いているイメージは、いまだに、『恍惚の人』(有吉佐和子著、1972年)に描かれたような認知症の人の印象が強くあると思います。テレビなどのメディアも、「認知症になると、これができなくなる、あれもできなくなる」というように視聴者が思ってしまう内容が多く、「認知症の人」は何もできなくなってしまうという極端なイメージをもたれてしまう人も少なくないでしょう。
 そして、今は、「あんなふうにはなりたくないね」とばかりに、認知症予防の情報があふれています。これでは、認知症の人をどう介護していけば良いのか、考えることが難しくなってしまいます。

※1参考 厚生労働省 介護保険事業状況報告(暫定)令和5年

「こんな暮らしができる」ことを、知ってほしい

 肝心なのは、「たとえ、徐々に認知機能が低下しても、こんな暮らしができる」という情報が、多くの人の元に届くことです。「あれができない、これができない」という情報ばかりでは、認知症の人とその家族の方々の豊かな暮らしは設計できません。「こんな暮らしができる」という情報が入ってくれば、前向きな生活のイメージを描くことができるはずです。
 そしてそれは、認知症に限ったことではありません。介護・サポートを必要としている人とその家族にとっては、それぞれの状況に対応した、実際の生活スタイルを伝えてくれる情報こそが重要なのです。
 その意味では、私たち福祉の専門職が努力し、実際に介護サービスを利用している人たちの生活を知ってもらうきっかけを、もっとたくさん作っていかなければなりません。皆さんも、認知症を発症した人の、あるいは、体が不自由になった人の、実際の生活を知るように努めてほしいと思います。
 もうひとつ、皆さんにお願いがあります。病気になって倒れてしまう前に、あるいは、体の自由が効かなくなってしまう前に、「自分はどう生きていきたいのか」を考える機会を、ぜひ持ってほしいと思います。
 介護保険を申請する人は、サービスを利用した経験がないわけで、勝手がよく分かっていません。そのとき、「何を大切にしたいのか」を見失っていると、サービスの利用計画を言われるままに決めてしまい、その計画に生活を合わせることになりかねません。それでは主客転倒もいいところです。
 病気になったとしても、体が不自由になったとしても、大切にしたい自分の生き方や生活スタイルというものが、一人ひとりにあると思います。介護保険のサービスは、大切にしたい生活スタイルを実現するための新たな手段を提供してくれたり、生活の選択肢を増やしてくれたりします。介護サービスを上手に活用して、人生の終盤を豊かなものにするために、「どう生きたいのか」をしっかりと自分の中に持っておくことが大事だと思います。

介護だけの視点ではなく生活全体を見たプランを

 実際に介護保険のサービスを利用するに当たっては、信頼できるケアマネジャーに出会うことが、とても大事になってきます。先ほど申し上げたように、介護サービスとは、人生の終盤の生き方をできるだけ本人が望むようになるために使うものです。ですから、ケアプランは「介護」という狭い領域の視点からではなく、「生活」領域全体を見て作成されるべきものです。そうした視点に立って相談に乗り、提案してくれるケアマネジャーは、信頼できるといえるでしょう。
 例えば認知症の人と関わる場合、私は、通常のアセスメント(※2)の他に、その人のこれまでの人生や生活の背景を時間をかけて聴くようにしています。その次に、「こういうことを望んでいるのではないか」という部分を一つひとつ確認していくのですが、その過程で相手が私を信頼してくれるようになります。具体的な介護や支援の話をするのは、信頼関係ができた後です。
 つまり、介護プランが先にあるのではなくて、当人の気持ちを理解することが優先なんです。関係性の構築を抜きにケアプランだけができあがっても、本人が望む生活スタイルを実現することはできません。
 介護サービスを使うのも、これから先、生きていくのも、当事者本人です。本人にとって何が最善なのかを優先してください。そして、本人の心情を理解せず、家族の思いを受けとめてくれないようなケアマネジャーだったら、交代してもらう事も、一つの方法でしょう。

※2生活状況や心身状態をヒアリングすること。

介護サービスは家族がカスタマイズすべき

 皆さんに認識していただきたいのは、「介護保険は万能ではない」ということです。介護サービスは本人の生活を部分的に補完するもので、すべての問題を解決してくれるものではありません。家族が担う部分と介護の専門職に任せる部分をきちんと分けて、「介護をシェアする」ことがとても重要です。
 例えば、介護を家族だけで抱え込み全員が疲弊してしまっては、本人も家族も、家族として安らげる空間を失ってしまうことになります。適切に介護サービスを入れて、心を通わせ、互いに思い合う家族としての機能を、健全な状態に保っておくことが大事です。
 逆に、介護サービスに任せすぎるのも良くありません。人生の最期を迎えようとしている中で、本人と家族が触れ合い楽しく過ごす時間を、ぜひ作ってください。そのことが、代えがたい記憶として本人に残るでしょう。家族にしても、「大変だったけど最後までやり抜いた」と思えることで、安らかに見送れるのだと思います。——それが、家族というものではないでしょうか。
 結局、それぞれの家族にそれぞれ積み重ねてきたものがあって、その家族が元々持っていた機能や“家族としての力”がベースとなり、そこに寄り添う応援団として介護サービスがあるのです。そして、一律の介護保険制度を、家族自らがカスタマイズし、上手に活用することが一番大事なことなのだと思います。介護の専門職は家族の役割は果たせません。そのお手伝いを、全力でするのみです。

認知症単独型通所介護デイホーム「風のさんぽ道」施設長。居宅介護支援事業所ケアプランセンター南風所長。社会福祉士事務所「風のささやき」代表。社会福祉士・主任介護支援専門員・認知症ケア専門士。2003年に設立した「風の詩」を拠点に、ソーシャルワーク実践を行っている。

※この記事は、都道府県民共済グループ発行「介護のことがわかる本」の抜粋です。
内容は、執筆時点2025年8月1日のものです。

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